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旅をする生態系

知っているようで知らない自然のこと

知床と観光

知床はアイヌ語のシリエトク(意味:地の果て)という言葉が語源になっています。現在では道の駅の名前として採用されていたりします。その名の通り北海道の東の果てに位置しており、最寄りの女満別空港から車で2時間ほどの道のりを経て辿り着くことができます。知床は1964年に国立公園に指定され、2005年にはユネスコの自然遺産に登録されました。

 

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知床には日本国内のみならず海外からも数多くの観光客が訪れます。1998年に180万人の観光客が訪れましたが、観光地間の競争によって観光客数は減少、2012年に訪れた観光客は120万人に留まりました(斜里町観光振興計画案)。

 

ユネスコの自然遺産に登録されると観光地として人気が出そうです。日本全体としても訪日観光客は増加の一途をたどっているにもかかわらず意外に感じます。

 

そこで、ユネスコ自然遺産について考えてみます。ユネスコが定める世界遺産登録基準は以下の通りです。

www.unesco.or.jp

世界遺産の登録基準(自然遺産に該当する部分を抜粋)
(7) 最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
(8) 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
(9) 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
(10) 学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。

 

 知床国立公園が満たしている基準は(7)自然美・美的価値ではありません。これに該当する自然遺産は日本では屋久島のみです。海外ではアメリカのイエローストーン国立公園やヨセミテ国立公園、オーストラリアのグレート・バリア・リーフなどが該当します。どこも世界的に人気の観光地になっています。

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知床国立公園の登録理由は(9)海と陸が相互につながりをもつ生態系(10)海生哺乳類や希少な海鳥類などの生息地の2つです。

 

  • 海と陸が相互につながりをもつ生態系

知床の名産品でもあるサケは産卵するために海の栄養をたくさん蓄えて秋なると知床の川に戻ってきます。そのサケを狙ってヒグマやオジロワシなどが川にやってきてサケを狩ります。サケを食べたヒグマやオジロワシは知床の森にフンをします。フンはいずれ土となり知床の森を育みます。このように、サケが海から運んできた栄養が、生態系のつながりによって知床半島全体に恵みをもたらすと言われています。これは知床が自然遺産に登録された大きな理由の一つですが、科学的にはこのメカニズムは証明されていません。

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※この写真は教員の指導のもと、自身の安全とヒグマに配慮して撮影しました。

 

  • 海生哺乳類や希少な海鳥類などの生息地

こちらは環境省の解説を引用します。

環境省_知床国立公園_公園の特長

哺乳類は、陸上哺乳類36種、海生哺乳類22種の生息が確認されています。これらの中には、トド、マッコウクジラといった国際的に希少な種も含まれます。また、知床の代表的な動物といえば、日本最大の陸上動物であるヒグマです。知床半島の生息数は少なくとも200頭以上と推測され、世界でも屈指の高密度であるといわれています。

鳥類は285種が記録されており、絶滅危惧種であるシマフクロウオジロワシクマゲラなども生息しています。また、国立公園や周辺地域は、オオワシにとっては越冬個体が1,000羽以上になる世界的に重要な越冬地です。

 生態系のつながりは直接目にすることはできませんし、希少な動植物を見ることも容易ではありません。人気のシマフクロウなどは、熱心に知床に通っていても出会うことは稀です。余談ですが、とある宿泊施設がシマフクロウに餌付けをして野鳥カメラマンを集客していたことがあります。それを某新聞社が「シマフクロウを撮影できる宿」として大きく取り上げたことで地元住民や研究者以外には秘匿されるべきシマフクロウの生息地が一般に晒されるという事態が発生したこともあります。また、ヒグマを見たいが故に車から降りてヒグマに接近する観光客も後を絶ちません。

 

難しいことかもしれませんが、見るだけにとどまらない、見ることにこだわらない自然体験が知床の今後を考える上では必要だと思います。

 

国立公園や自然遺産にとって観光と保全は切っても切り離せない関係にあります。多くの人間が訪れることが、その場所の自然にとっては幸せではないかもしれません。しかしながら、人間社会から興味をもたれなくなった自然の未来は明るくはないでしょう。

 

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