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旅をする生態系

知っているようで知らない自然のこと

野生動物との付き合い方

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都市に住む人にとって野鳥は一番身近な野生動物ではないでしょうか。ドバト、カラス、スズメ、ムクドリなど、都市を住処にする野鳥を見かけない日はありません。珍しい野鳥を観察するバードウォッチングは世界でもポピュラーな趣味の一つと言えるでしょう。

www.birdfan.net

自然を知る良い機会となっている一方で、観察マナーやが野鳥の巣に過度に接近して野鳥にストレスを与えるなどの問題も指摘されています。

 

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また、一部では触れるなどの直接的接触及び水などを経由した間接的接触によって人間に重大な病気をもたらす野生動物も存在します。その代表例がキツネや野ネズミに寄生するエキノコックスです。北海道ではどんな清流であろうとも川の水を飲むことは避けています。一応その他の地域でも川の水を飲むことはお勧めしません。

www.cpvma.com

 

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シカは人間にとってはあまり害のある野生動物ではありません。しかし、オオカミなどの天敵が消えたことによって増えたシカは、植物を根こそぎ食べてしまい生態系に大きな変化をもたらす存在です。多くの日本の森林で、増えたシカは問題とされています。対策として狩猟やシカ柵の設置等が進められていますが、究極の解決策にはなっていません。現実的ではありませんが、究極の解決策はオオカミなどの天敵を復活させることでしょう。

 

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クマは人間にとって、最も恐れるべき野生動物の筆頭です。北海道、知床のウトロは町がクマ除けの電気柵に囲まれており、人間は柵の内側で生活しています。しかし、一部のルールを守らない観光客は写真撮影のためにクマに接近します。そうして人間に慣れてしまったクマは人間を恐れなくなり、いつの日か人間を襲うようになる可能性があります。人間を襲う可能性のあるクマ(問題個体)は行政から駆除命令が下されます。

www.shiretoko.or.jp

 

このように、人間が野生動物との距離感を間違えると双方に不幸な結末が訪れてしまうかもしれません。自然の中の野生動物は、動物園の飼育動物とは異なることを理解する必要があると思います。

燃えるヨセミテ国立公園

アメリカ、カリフォルニア州に位置するヨセミテ国立公園は、アメリカ国内においてイエローストーン国立公園に次ぐ人気を有する国立公園です。1984年にユネスコの自然遺産に登録され、アメリカ国内外から年間に400万人を超える観光客が訪れています。その広さは約3,000平方キロメートルで、東京都の約2倍の面積を誇ります。

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www.visitcalifornia.com

 

世界最大の一枚岩であるエルキャピタンをはじめ、ボルダリング発祥の地とされるCAMP4のミッドナイトライトニングなど、クライマー達を惹きつけてやまないスポットが無数に存在し、その人気は観光客のみにとどまりません。

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 そんな魅力溢れるヨセミテ国立公園ですが、時々山火事が発生します。山火事は乾燥した夏季に落雷などによって自然に引き起こされます。アメリカでは1年に東京都一個分ほどの面積の森林が燃えることも珍しくありません。

 

しかし、山火事によって美しい景観が燃えてなくなってしまうのは人間にとって都合がよくありません。国立公園を管理するアメリカ国立公園局はせっせと山火事を消火し続けました。その結果、本来ならば自然発生する山火事で燃えるはずだった植物(燃料)がどんどん育ちました。最後には満タンのガソリンに火をつけたような山火事が発生して全てを燃やし尽くしました。

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また、山火事は生態系の新陳代謝を促す役割も担っています。山火事の熱を感知して芽を出す植物もあり、山火事によって生態系は次の姿へと移り変わっていきます。ジャイアントセコイアなども山火事と共に生きてきたとされています。山火事は生物多様性を推進するエンジンとも言えるでしょう。

 

takagi.hatenablog.com

 

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このことを教訓にアメリカ国立公園局は、重点観光地域や住宅地で発生した山火事以外は消火活動を行わないという方針を打ち出しています。それでも、観光と生態系保全のジレンマはまだまだなくなりそうにはありません。

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ジャイアントセコイアとデスバレー

ジャイアントセコイア(Sequoiadendron giganteum)は地球上に現存する最も体積が大きな樹木です。アメリカ西部のシエラネバダ山脈の西側に生えており、セコイア国立公園やヨセミテ国立公園でその姿を見ることができます。ちなみに体積は世界最大の動物であるシロナガスクジラの20倍以上とされています。なお、世界最大の生物はオニナラタケというキノコ(菌類)のようです。樹齢は約1000〜3000年と言われており樹木の中では最高齢という訳ではありません。また高さも約80〜90mであり、コーストレッドウッドという種に劣ります。しかし、これほどまでに「巨木」という言葉が似合う種は他にいないでしょう。

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ヨセミテ国立公園ジャイアントセコイア

 

成長した姿は巨大ですが、ジャイアントセコイアの松ぼっくりは5cmほどと控えめです。近くに生えているシュガーパインという種の松ぼっくりは30cm近くの大きさがあります(写真左)。近いうちに解決したい疑問の一つです。

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ジャイアントセコイアがシエラネバダ山脈の西側に生えている理由は海と山脈の位置関係にあります。太平洋で湿気をたっぷり吸収した雨雲は東へと進みます。そこに立ちはだかるのが標高3000mを超える山々で構成されるシエラネバダ山脈です。雨雲は湿気を含んで重いため、シエラネバダ山脈を超えるために手前(山脈西側)で雨を降らします。こうしてヨセミテは豊富な雨に恵まれたため、ジャイアントセコイアのような巨木や多様な生物を育むことができました。

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ヨセミテ国立公園にはカリフォルニア州に見られる生物のうち、およそ20%もの種が住んでいると言われています。

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一方で、シエラネバダ山脈の東側は雨がほとんど降りません。そこには荒涼とした風景が延々と広がっており生命の躍動を感じません。こちらも国立公園に指定されており、デスバレー(死の丘)と呼ばれています。

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巨木と死の丘を隔てるのは山脈であり、生態系が地形によってコントロールされる代表例でした。

チャールズ・ダーウィン 〜 生物多様性の成り立ち 〜

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2月12日はチャールズ・ダーウィンの誕生日です。ただし200年以上昔の1809年のことです。ダーウィンは自然選択による生物の進化(=進化論)を唱えた「種の起源」の著者であり、現代生物学の礎を築いた人物です。NHKの自然番組「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」はダーウィンの名を関しており、同番組に出演するキャラクターのモチーフにもなっています。

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 大辞林第3版より、

しぜんせんたく【自然選択】
〔 natural selection 〕
ある生物に生じた遺伝的変異個体のうち生存に有利なものが生き残ること。集団遺伝学では,異なった遺伝子型をもつ個体が次代に残す子孫の数によって自然選択に対する有利さを評価する。ダーウィンが導入した概念。自然淘汰(とうた)。

生存に有利な特徴をもつ生物個体が生き残ることによって有利な特徴が子孫に引き継がれ、強まっていくという理論です。 キリンで例えると、首の短いキリンよりも首の長いキリンの方が高い場所の餌を食べることができました。首の長いキリンはより多くの餌を食べることのできたので生き残ることに成功しました。首の長いキリンの子は産まれながら首が長く、高い場所の餌を食べることができました。首が長いキリンが生存競争に勝利した結果、子孫はどんどん首が長くなっていったのです。これがダーウィンが唱えた自然選択(淘汰)による進化論です。

 

長い地球の歴史の中で自然選択が想像できないような長い時間スケールで続いた結果、今日の生物多様性が成立したと言われています。

 

www.afpbb.com

 

自然選択は生物多様性の成り立ちの疑問や進化の謎を解き明かす究極の理論ではありません。それでも自然の謎を解く大きな道しるべとなっていることは事実だと思います。

 

ダーウィンは自然選択以外にも数々の知見を残しています。最後に気に入っているエピソードを一つ紹介します。

 

昆虫によるランの受精についての論考(チャールズ・ダーウィン、1862年)

マダガスカルのラン科植物の花に特異に発達した長大な距( がくや花弁の基部にある袋状の突起)の形状に着目し、その距の奥から蜜を吸い得る長い口吻を持つ昆虫がいるはずだと予想した。ダーウィンの死後、この距の長さと同等の27cmの長さの口吻を持つスズメガが発見された。こうした現象を引き起こす進化の様式は、今では共進化と呼ばれている。

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知床と観光

知床はアイヌ語のシリエトク(意味:地の果て)という言葉が語源になっています。現在では道の駅の名前として採用されていたりします。その名の通り北海道の東の果てに位置しており、最寄りの女満別空港から車で2時間ほどの道のりを経て辿り着くことができます。知床は1964年に国立公園に指定され、2005年にはユネスコの自然遺産に登録されました。

 

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知床には日本国内のみならず海外からも数多くの観光客が訪れます。1998年に180万人の観光客が訪れましたが、観光地間の競争によって観光客数は減少、2012年に訪れた観光客は120万人に留まりました(斜里町観光振興計画案)。

 

ユネスコの自然遺産に登録されると観光地として人気が出そうです。日本全体としても訪日観光客は増加の一途をたどっているにもかかわらず意外に感じます。

 

そこで、ユネスコ自然遺産について考えてみます。ユネスコが定める世界遺産登録基準は以下の通りです。

www.unesco.or.jp

世界遺産の登録基準(自然遺産に該当する部分を抜粋)
(7) 最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
(8) 生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
(9) 陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
(10) 学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。

 

 知床国立公園が満たしている基準は(7)自然美・美的価値ではありません。これに該当する自然遺産は日本では屋久島のみです。海外ではアメリカのイエローストーン国立公園やヨセミテ国立公園、オーストラリアのグレート・バリア・リーフなどが該当します。どこも世界的に人気の観光地になっています。

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知床国立公園の登録理由は(9)海と陸が相互につながりをもつ生態系(10)海生哺乳類や希少な海鳥類などの生息地の2つです。

 

  • 海と陸が相互につながりをもつ生態系

知床の名産品でもあるサケは産卵するために海の栄養をたくさん蓄えて秋なると知床の川に戻ってきます。そのサケを狙ってヒグマやオジロワシなどが川にやってきてサケを狩ります。サケを食べたヒグマやオジロワシは知床の森にフンをします。フンはいずれ土となり知床の森を育みます。このように、サケが海から運んできた栄養が、生態系のつながりによって知床半島全体に恵みをもたらすと言われています。これは知床が自然遺産に登録された大きな理由の一つですが、科学的にはこのメカニズムは証明されていません。

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※この写真は教員の指導のもと、自身の安全とヒグマに配慮して撮影しました。

 

  • 海生哺乳類や希少な海鳥類などの生息地

こちらは環境省の解説を引用します。

環境省_知床国立公園_公園の特長

哺乳類は、陸上哺乳類36種、海生哺乳類22種の生息が確認されています。これらの中には、トド、マッコウクジラといった国際的に希少な種も含まれます。また、知床の代表的な動物といえば、日本最大の陸上動物であるヒグマです。知床半島の生息数は少なくとも200頭以上と推測され、世界でも屈指の高密度であるといわれています。

鳥類は285種が記録されており、絶滅危惧種であるシマフクロウオジロワシクマゲラなども生息しています。また、国立公園や周辺地域は、オオワシにとっては越冬個体が1,000羽以上になる世界的に重要な越冬地です。

 生態系のつながりは直接目にすることはできませんし、希少な動植物を見ることも容易ではありません。人気のシマフクロウなどは、熱心に知床に通っていても出会うことは稀です。余談ですが、とある宿泊施設がシマフクロウに餌付けをして野鳥カメラマンを集客していたことがあります。それを某新聞社が「シマフクロウを撮影できる宿」として大きく取り上げたことで地元住民や研究者以外には秘匿されるべきシマフクロウの生息地が一般に晒されるという事態が発生したこともあります。また、ヒグマを見たいが故に車から降りてヒグマに接近する観光客も後を絶ちません。

 

難しいことかもしれませんが、見るだけにとどまらない、見ることにこだわらない自然体験が知床の今後を考える上では必要だと思います。

 

国立公園や自然遺産にとって観光と保全は切っても切り離せない関係にあります。多くの人間が訪れることが、その場所の自然にとっては幸せではないかもしれません。しかしながら、人間社会から興味をもたれなくなった自然の未来は明るくはないでしょう。

 

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生物多様性は必要か?

多様性が大切!といった意味合いのスローガンは、現代社会において広く使われています。人材の多様性、文化の多様性、価値観の多様性など、現代社会において多様性は社会の変化と発展に重要な要素であるとみとめられています。

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私が専攻する生態学においても生物の多様性、つまりは生物多様性は自然環境や人間社会にとって守るべき重要な要素だということが共通認識となっています。

 

大辞林(第三版)より、

せいぶつたようせい【生物多様性
遺伝子・生物種・生態系それぞれのレベルで多様な生物が存在していること。

 

1. 遺伝子の多様性

同じ種でも遺伝子が異なることによってさまざまな差が生まれます。例えば同じヒトでも体格から髪の毛や肌の色まで、大きな差があります。また、遺伝子の違いによって病気への耐性なども異なり、流行病で全滅を避けることができると言われています。

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2. 生物種の多様性

これが一番イメージしやすく、単純に多くの生物種が居ることを指します。時折、遺伝子の多様性だけでは乗り越えられない事態が発生することがあります。6500万年前の隕石衝突で地球の環境は急速に寒冷化して、恐竜は絶滅したと言われています。ところが、寒さに強い哺乳類などは生き残ることができました。

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3. 生態系の多様性

森林、川、湿原、湖、海などいろいろなタイプの自然(≒生態系)があることです。生態系が異なることによって生物種や遺伝子の多様性が育まれています。

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これらの生物多様性は生物が絶滅するリスクを減らすだけではありません。

有名な進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは著書「種の起源」で生物多様性がもたらす利益について以下のように言及しています。

 

「さまざまな植物が生えている場所は植物の生育が良くみえる」(意訳&抄訳)

 

現在、盛んに議論が行われている生物多様性が自然の恵み(=生態系サービス)をもたらすという理論の源流の一つでです。

旅をする生態系

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生態系という単語をGoogleで検索すると検索予測の第2位が「意味」、第4位が「定義」となっています。最初は生態系とは何か?から始めたいと思います。他にも興味深い検索予測が並んでいるので後々取り上げるかもしれません。

 

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大辞林(第三版)より

せいたいけい【生態系】

自然界のある地域に住むすべての生物群集とそれらの生活に関与する環境要因とを一体として見たもの。エコシステム。

かなりざっくり言うと、生物生物が暮らしている環境から成り立っているものが生態系です。

 

例えば湖は、

 

[生物]

プランクトン、魚、水鳥など

 

[暮らしている環境]

湖の温度や成分など

 

から成り立つ生態系と言えます。

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地球ではさまざまな生態系が折り重なって、自然が成り立っています。

もちろん、私たちホモ・サピエンスも生態系の一員です。

 

本サイトでは、そんな「生態系」をテーマに自然に関する記事を書いていきます。生物多様性って何?といった基本的なことから自身の研究、ネイチャーやサイエンスなどの学術雑誌に掲載されているような研究までわかりやすい解説を心がけます。 

 

なお、記事は可能な限り科学的根拠に基づいて執筆するように努力し、出典がある場合はその旨を明記します。